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「あ、はい。趣味で…誰もいないこの湖で作曲するのが僕の日課なんです。まだ誰にも聞かせた事がないけれど」 「そうか、それは邪魔をしてしまったな。いつもは水浴びなどせぬのだが…何故か今日は急に水浴びがしたくなったのだ。許せ。」 「いぇ、こちらこそ…あなたの…その…見て…しまって…」 「なに、見られて困る事などしてはいない…と、そうだ。 お前のその詩を私に聞かせてはくれぬか?」 「人に聴かせられるようなものではありませんが――貴方が望むなら。」 そう言うとパーシヴァルは楽器を手に取った。 心を込めて――― 腰を卸すと、朗々と歌い上げる。 美しく有るかな黄金の大地 富ましませゆたかなる草原 空仰ぎ見れば金色の月よ 抱きましませ母なる海 全てを包む優しき父よ 全てを慈しむ慈愛のひとよ 「お前が作った詩か、よい…詩だな。森の木々も喜んでいる。まるで光を奏でているようだ」 気がつけば月は傾きかけ、空が東から白いできていた。 歌の余韻に浸っていたパーシヴァルが、ややあって急に飛び起きた。 「し、しまった!うっかりしてた。このままじゃ仮眠を取る時間もないじゃないか。朝の礼拝に遅れてしまう!」 「お前、ちゃんと礼拝に出ているのか。ふむ。よい心がけだ。これ以上邪魔をしてはいかんな、そろそろ引き上げるとするか。」 わたわたと身支度を整えていたパーシヴァルが、はたと手を止めて振り返る。 「また、会えますか?」 「……」 「僕、いつも同じ時間にここに来ます。」 「……」 「貴方の為に詩を書かせてくれませんか?今度会うとき、その詩を聞いて欲しいんです」 「…わかった」 パーシヴァルの顔が明るくなった。 ――あぁっ来週が待ち遠しい! 「それではまたこの場所で!…あ、そうだ、私の名前はパーシヴァル。貴方の名前を教えていただけませんか?」 「…サヘル…私の名前はサヘルだ。」 「サヘル…良い名だ…それではサヘル、また」 「あぁ・・・またな」 嬉しそうに踵を返す青年の後姿を見送りながらサヘルはポツリと呟いた。 「また……か…約束など他人と交わした事などこれまで無かったな。 それもヒトとなどと。」 パーシヴァルの姿が見えなくなって暫く経ったというのに、 サヘルはまだ彼と交わした約束の事を考えていた。 しかし、あの心地よい楽の音がもう一度聞けるのならば、 それもまたよいかと小さく微笑んだ。
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